書棚『ランニング王国を生きる』
久しぶりの書棚です。
ランニング王国を生きる(21年7月刊)
著者はスコットランド在住の英国人です。
10キロ30分を切れるくらい、バリバリのランナーですが
文化人類学の論文を書くため、エチオピアに滞在した手記が本書です。
ケニアやエチオピアに代表されるランナーは、
「幼いころから学校に通うため、高地を何十キロも
走っているから強い」
という俗説があるのですが、実地での取材を通して
それを真っ向から否定するところからスタートしています。
本書には、エチオピアの英雄であるハイレ氏
(元マラソン世界記録保持者)やケネニサ・ベケレ選手を目指し、
クラブチームで日々真剣に走る若者たちが描かれています。
10キロを30分5秒で走る力がありながらも、
「才能がない」とあきらめてしまった若者、
ブランクがありながらも、1秒の差を意識して
正確なペースメイクができる若者、
等のエピソードから、非常にハイレベルな、
かつ深く浸透しているランニング文化には驚嘆の一言です。
印象的だったのが、リタイアに躊躇いがない選手が多いことです。
著者はエチオピアで開催された大会にも参加しているのですが、
上位に食い込めないと分かった、
あるいは外国人に抜かれるくらいなら、
という理由で脱落する若者が目立ちました。
彼らにとっては、優勝または好タイムでの入賞があって、
はじめて国際大会などへの道が開けるため、
(=収入を含め人生に劇的な変化をもたらすため)
ただの完走などは、何の意味も持たないということでしょう。
この姿勢は、五輪の男子マラソンでエチオピアの3選手が
そろって早い段階で棄権した姿につながりました。
勝てないと分かった時点で余計なことはしない。
国を代表する大会であろうと、他の国際大会同様
人生を変える一手段に過ぎないので、
そのあたりを冷静に判断しているんだろうと思いました。
リタイア後はさっと切り替え、
秋の6メジャーズを見据えてるのでは、と(勝手に)想像しています。
市民ランナーでは「リタイアする勇気」という言葉も
あるほど、完走にこだわりを持っている人は多いですが、
彼らは全く違う判断軸があるのだな…印象に残りました。